inFIRE2019

柴田聡子から、ツアー「がん!メロ」を振り返る、超長文のエッセイ、というか旅日記が届きました!なんと6,000文字オーバーの超大作。特にツアーに参加したみなさんにはその時の雰囲気をうっすらと思い返してもらえるような、特別なテキストになってくれるんじゃないかと思いますので、ここに公開させていただきます。アルバムのお供に、一緒に楽しんでいただけたら幸いです。


アルバム「がんばれ!メロディー」のツアーは忘れられない。たくさんの人たちの情熱をもらった。自分も変わった。そういう日々の一部がこうして残ることは、ライブだから今聴くと恥ずかしいところもあるけど、また楽しいことをしようと励みになる。好きなところで好きなように聴いてもらえたらうれしいです。あとは、CD盤でしか手に取れないアートワークもあって、それも本当に格好いいです。一緒に作ってくれた皆さま、ツアーに来てくれた皆さま、本当にありがとうございました。ぜひ聴いてください!

ついでに今更だけど「がんばれ!メロディー」のツアーのことを思い出せるだけ思い出してみようと思う。登場してくる人、事は以下です。

柴田聡子inFIREの皆さん
イトケンさん:ドラム
しのぶさん:かわいしのぶさん、ベース
岡田さん:岡田拓郎さん、ギター
ラミ子さん:コーラス、パーカッション
ダブさん:DubMasterXさん、音響、F.O.H.

安室奈美恵:歌手
青山テルマ:歌手
TWICE:アイドルグループ
NBAプレーオフ:2019年4月から6月にかけて行われたNBA全体の優勝決定トーナメント
サンダー:オクラホマシティ・サンダー、NBAのチーム
ウェストブルック:ラッセル・ウェストブルック、昨シーズンまでサンダーの中心選手を務め、2019年7月にヒューストンロケッツに移籍した
フェルトン:レイモンド・フェルトン、サンダー所属のベテランポイントガード
アニー:ミュージカル作品

初日は札幌だった。ラミ子はぎりぎりでインフルエンザから生還。空港にグレーのマスクで現れた姿にはかなりスター性があった。スターのお忍び旅行って感じだった。適当にチケットが配られた結果、飛行機でのラミ子の隣の席は岡田さんになった。今回のツアーではみんな色違いでジャージを着た。それぞれに似合いそうな色を渡した。ラミ子だけ上下のセットアップで、がっつりお腹の出るやつだったのだが、インフルエンザ明けで腹出しは無理だろうということで上を持って来ず、長袖のパーカーで演奏するというラミ子に私はキレた。我ながら意味不明だし、ひどいと思う。古着屋でモコっとしたトレーナー?を買ってそれを着てもらうことにした。あれ以来ラミ子があれを着ているのを見たことがない。ツアーに出る前、ウォームアップにはどんな曲がいいのか考えてみたところ、安室奈美恵の「Baby Don’t Cry」と青山テルマの「そばにいるね」がぴったりだということになったので、その2曲をよく口ずさんでいた。自分にとってちょうど苦手な滑舌や音程が目白押しの2曲だった。そしていい曲だった。この日はやっぱり緊張した。力が入った。足をどんな風に地面に置いたらいいのか迷った。「結婚しました」をそれぞれの思うサンバでやる、という奇妙なダブルアンコールをやって、しかしみんなが見事にサンバをやっていて、私はものすごい感動に包まれていたが、ダブさんはじめ、ステージを外から見ていてくださったスタッフのみなさんからは若干の軌道修正を提案され、これも驚きと感動に包まれた。そうか、そうなんだ。と思ってたけど、この日のダブルアンコールは「ラミ子とシバッチャンの仲良しソング」だったと、この記事を公開してすぐイトケンさんが教えてくれた。イトケンさんはメールやLINEの返事がめちゃくちゃ早い。5秒くらいで帰ってくる。ライブの後みんなでジンギスカンを食べに行った。ラミ子は部屋に帰った。私は実家に泊まり、両親に「歌うまくなった?」と聞かれ、気が済むまで犬に触ってすぐ寝た。
翌日は仙台だった。新千歳空港に一足先に着いてみんなを待った。空港のはずれ、誰も居ないさみしげな玄関からみんなが入ってきた光景をよく覚えている。私はよくYoutubeで、TWICEが空港に着いたりどこかに飛んだりしていく様子を見る。カメラに映るメンバー達は楽な格好をしていたり、化粧をしていなかったり、ラフでオフ。ラミ子のグレーのマスク姿がちょっとそれを彷彿とさせていて、やっぱりスターっぽいなと思った。仙台は突き抜けて気持ちいい晴れだったような気がするんだけど、ライブが終わって帰る時には雨だったような気もして、どっちだったっけ。直前で予約が伸びてて、うれしかった。このツアーではリハーサルの大切さがいっそうよく分かった。毎日初めから音を作るんだと学んだ。そうやってバランスをとっていって、みんなの演奏が大きい塊みたいに聴こえてくると、音楽への恋や夢や憧れが目の前に、頭の中にぱっと花開き、この上なく楽しい。夜、車で走って東京に帰った。途中、SAで牛タンを食べようとるんるんで食堂に向かうも全て終わっていた。全員悲しかった。岡田さんは諦めきれずにおみやげ風の牛タンを買っていた。それぞれ代わりに頼んだものがどれもおいしそうだったので気持ちが切り替わった。 東京に着いた時はざーざー降りだったような気がするけど、やっぱりどこかと間違えているかもしれない。
少し間が開き、次は京都へ行った。渋谷に待ち合わせて車に乗り込んだ。道を間違え、いきなり10分遅刻した。10分の遅刻っていうのは本当に良くない。しかも私は自分で遅刻しといてキレはじめたりする。そして謝らないでごまかしたりする。本当に良くない。遅刻さえ無ければこういうことは起こらないし、何も台無しにならないのに、未だに全然直らない。どこかに行く前の日はたいていよく眠れない。たぶん楽しみなんだろうな。この日もほぼ一睡もできずに車に乗り込み、途中少しだけ眠った。昼間に寝る20分は夜寝る3時間に匹敵する、というネットの情報を本気で信じていたらだんだん真実に思えてきて、みるみるうちに元気が出てきて、寝不足を忘れて車でダブさんと話しまくった。号泣した記憶がある。途中食べた冷やし中華の旨さ、体に電撃が走った。ダブさんとしのぶさんと列に並んで豆大福を買った。しのぶさんが、さっき家を出てった魚屋の御用聞きの後ろ姿に一丁向こうからオーイ、やっぱりあれもひとつお願い!と話しかけるような感じで、なにか追加のお菓子をダブさんに頼んでいたのがいい景色だった。なにを頼んでいたんだっけ。ちがう餡の大福だったかな。四万十川で働いていた時の上司が車で何時間もかけて観に来てくれたうえにたくさんの鮎の塩焼きまで持ってきてくれた。この日のライブは出だしでなぜか涙が出て声が上ずった。初っ端で声がぶっ飛んだのかとダブさんはひやひやしていたらしい。理由はあるにはあったんだけど、恥ずかしいので言わずにおいた。
次の日は名古屋だった。京都からの移動中、ダブさんとしのぶさんはお互い、自分の思う最高の味噌煮込みうどんの店について熱く語り合い、そんなに言うならしのぶさんの言ってる店に行こうじゃないか、お手並み拝見という流れになり、ガスビル、というところの地下の味噌煮込みうどん屋へ行った。そこがダブさんも唸る旨さで、食べ終わったあとにダブさんとしのぶさんはがっちり握手を交わしていたような気がするんだけど、していなかったかもしれない。二人の意気投合する姿が鮮やかに印象に残っていたので、勝手に夕日の土手の上に立っている想像をしてしまい、そういう記憶になっているのかも。みんなについていっているだけで美味しいものが食べられて幸せだった。食べても食べなくても幸せだった。どんな車に乗って移動したのかもあんまり覚えていない。大きかったけど、1台だったか、2台だったか。車の中では、寝てるのかな?と思っていたしのぶさんが、急に車内のBGMに反応してどこかから細く声をあげたり、一緒に歌うのが聞こえてきた。それがあると、これはいい曲だなと思った。クインシー・ジョーンズが大好きだと言っていた。みんなが何をしているのかあんまりよくわからないくらいには大きな車だった。私は、近くに誰かがいるとずっと喋っていたくなる。愛知の方言は、男女問わず、日本で一番かわいい。知多半島に行ってみたい。この日もライブが終わったら東京へと帰った。途中、浜松に降りて、なにがなんでも「さわやか」でハンバーグを食べるんだという計画があり、血眼で走り、無事成し遂げた。店を出た瞬間にもうまたハンバーグが食べたくなった。幸せな気持ちで東京に帰ったはいいものの終電が無くなっていて、家まで送ってもらうことになり、あんなに浮かれてハンバーグを食べたことが急に恥ずかしくなった。岡田さんは名古屋に残る予定だったのでハンバーグを食べることができなかった。というのは実は3月に名古屋に行った時の記憶だったことが、このツアー記録をチェックしてくれたマネージャーさんからのご指摘により発覚。「さわやか」への思いがあまりにも強くて、静岡を通る度に立ち寄った気になっている。怖い。
1週間後、このツアーで一番長い行程が始まった。NBAプレーオフは大分佳境にさしかかっていたが、このくらいから観る余裕が無くなっていた。一番好きなサンダーはブザービーターで負けた。NBAを好きになったのは最近だったので、ある程度いいところを狙う成熟したチームがプレーオフ序盤で負ければその後には、チームの解体・再編が検討されることを初めて知り、悲しかった。バスケットのチームカルチャーから、「チーム」ということについてたくさん学んでいる。サンダーは色んな個性が集まってプレーしているのが好きだった。まさかウェストブルックが居なくなるのかなと思って泣いた。コートを去るフェルトンの後ろ姿が小さかった。大阪。ライブの為に集合する以外はそれぞれ思い思いに過ごすことが多くなった。岡田さんはレコード屋に行って、イトケンさんは走っていて、ラミ子は優雅にしてて、しのぶさんとダブさんはおいしいものを食べに行って、私はぎりぎりまで寝てるか、散歩した。大阪で泊まっていたホテル近くにある公園に行こうとしたのに反対側に歩いてしまった。川に出たのでその川をしばらく見ていた。川べりにはテラスがあって、ふかふかした椅子がたくさん置いてあった。誰でもこれに座っていいということがすごい。イトケンさんと岡田さんと話していて、エレギギターの弦のゲージを変える時にはオクターブチューニングが必要だと知った。今まで気ままに変えていた。私はピックでギターを弾くのが苦手なので大体爪の表面で弾いている。ライブが続くと爪が薄くなってきて、たまに出血してしまうのだが、この日、早い段階でそうなり、血まみれのライブになってしまった。血が苦手な皆さま、本当にすみませんでした。一番前のお客さんに絆創膏を頂いた。伝わるかわからないけど、ありがとうございました、助かりました。ワンコロメーターがものすごく盛り上がって、今までで一番くらい盛り上がって、初めての景色を観た。ありがたくて仕方がない。
次の日は福岡に移動した。途中、岡山でまたダブさんおすすめのとんかつを食べた。本当にたくさんの美味しいものを知っている。カウンター席に座ったしのぶさんは、となりのサラリーマンに運ばれて来たとんかつの盛りの立派さに恐れ慄いて、何度も私たちの座ったテーブルの方をゆっくり振り返り、細い目をした。サラリーマンじゃなかったかもしれない。なぜ、関門海峡を渡る時はあんなにも興奮するのか。福岡に着く頃には日も暮れていて、みんなでさっとご飯を食べてホテルに戻った。戻る途中、昨日怪我した指のことを話していた時、イトケンさんが、オロナイン軟膏をなんにでも効く薬だと認識していて驚愕した。しかしこれは私の思い込みで、オロナイン軟膏じゃなくってメンソレータムだったらしくもっと驚いた。自分が怖い。部屋に帰るとiPhoneが動かなくなっていた。ぎゃーぎゃー騒いでラミ子の部屋に助けを求めに行ったがなにをしてもだめだった。暗くなっていても仕方がないから明るくいこう!ということで今回のツアーTシャツにもなった大股開きでジャンプするポーズで写真を撮ってもらった。また部屋に戻ってしんみりしていたらiPhoneが復活した。バッテリーが劣化していただけらしい。翌日、バッテリー交換に行った。どこにいても普段と同じようなことができる。福岡はこのツアー初めてのソールドアウトで、うれしかった。この日からピックを使った。指が全然痛くない。ただ、難しい。すぐ指からこぼれていく。アンコール前、イトケンさんが、じゃあ、ダブルカウントで!と言った時、はて、ダブルカウントとは…?と、一瞬ダブルカウントが何なんだかさっぱり分からなくなってしまった。あれはなんで分からなくなったんだろうか。実はこの夜、こっそり夜中にマッサージを頼んだ。前から頼んでみたかった。女性がさっと来て、さっと揉んで、さっと帰っていった。
次の日、岡山へ。ぶんぶん移動する。途中うとうとした時、天国のように気持ちが良かった。岡山はぴかぴかに晴れていて、5月とは思えないほど暑かった。この頃は5月もこんなもんか。現地でライブをサポートしてくれたモスラミュージックさんが用意してくれたルーロー飯、フルーツポンチ、ドーナツが規格外の美味しさだった。ラミ子が、この時のフルーツポンチのことが忘れられず、あの時のような味を求めて東京でもフルーツポンチっぽいもの食べ、しかしあの時の味とは違う、としょんぼりしているのを見たことがある。翌日、ひたすら東京へと走った。長い道のりだった。交代で運転をしていこうということになっていたのだが、ついに自分には回ってこなかった。回せなかったというのが正しいかもしれない。いつか力になりたい。SAの足湯に入るとむくみがさーっと引いて驚くほど体軽くなり、風呂の偉大さを改めて感じた。車内での音楽、最後の最後に「親父の一番長い日」を聴いた。それが終わるのと同時に目的地に到着したのが見事だった。
そこから二日間、記憶もほとんどなく過ごし、今回音源化されたLIQUIDROOMでのツアーファイナルを迎えた。私がこの世で一番キーが合っている曲、アニーの劇中歌「トゥモロー」を念入りに歌い、準備体操をして、いつものように音を作って、リハをして、本番に向かって、終わった。ライブの最中のことは思い出そうとしても全然うまく思い出せない。終わった瞬間は、ああ楽しかったな、またすぐに楽しいことをしたい、と口にしたことを覚えている。静かに乾杯をして、終電近くに解散。ラミ子と一緒にイトケンさんの車に乗せてもらって帰宅した。車内で、今日のライブはどうだったか、と少し話したけど、水面をふ〜っと吹いてみるくらいの波立ち。初めて会う猫の背中をおそるおそる、す〜っとなでるくらいの距離感。触ってもいかないでくれるかな、いかないでくれよな、という気持ち。まだこの猫と私は始まったばかりという期待。毎回毎回、音楽の懐の深さに放心する。音楽から人生のなにもかもを学び取れるとすら思う。
「がんばれ!メロディー」ツアー、一緒に演奏をして下さったイトケンさん、かわいしのぶさん、岡田拓郎さん、ラミ子さん、DubMasterXさん、一緒に回ってくれたスタッフの皆さま、各地でたくさんのご協力を頂いた皆さま、そしてアルバムを聴いて下さって、ライブを観てくださった皆さま、感謝しきれません。本当にありがとうございました。

柴田聡子